白波百合のリハビリテーション その④ 〜肺炎に至る日々の中で〜

百合リハ

白波百合は病室を訪れる。

そこにはもう孫の姿はいない。患者様は一人で呼吸を荒くしていた。

白波百合はちょっとだけ電動ベッドの頭の部分をあげる

これでも少しは呼吸は楽になるはずだ。

看護師さんから患者様の話を聞いた。

病室を訪れていたのはお孫さんではなく、年の離れた娘だという。

妻は随分と前に先立たれ男手一つで育てあげたと言っていた。

痩せてはいても骨格はしっかりとしている。大した人っす。と白波は思う。そして娘が結婚して長いこと一人で生活していたとも聞いた。

その日々はどんなものだろう。と白波はそう思う。

寂しかったのだろうか。それとも穏やかな日々だったのだろうか。

そうして一人の生活の中で徐々に食事の量は減っていったという。

それでも笑って迎えてくれましたと娘はそう寂しそうに話した。

いつしか何が原因かはわからないが、風邪だと言っていた。

そしてベッドで過ごす時間が増え、更に食事の量も減っていったという。

みるみる痩せていき歩く時にふらつき始め、とうとう大きくむせ込んだ後、熱発し救急搬送されてきた。

やる事は沢山ある。まずは辛そうな呼吸を先生や看護師さん、介護士さんとなんとかしなければならない。

大丈夫っすよね。そう患者様の枕を整えながら白波は声をかける。

姿勢を整えるだけで呼吸はちょっとだけ落ち着いたように見える。

患者様にもそれに病院で関わるスタッフもまた人間である。

その感情の揺らぎは止める事は出来ない。

患者様の部屋を後にして白波はそう考える。まさかこんなに遅い時間からリハビリを始めるわけにもいかない。

自分は一人ではない。そう考えてからは随分と気が楽になった。

それと同時に休憩室の空気も変わってきたと思う。

そして自分の気持ちにも気が付いてしまった。

感情の揺らぎは止める事は出来ない。

この患者様が自宅に帰れて、また穏やかな日々を送れるならば。

白波はそう考えて、大きく息を吸った。

自分は理学療法士っすからね。そして一人ではないっす。

声には出していない言葉のはずなのに、薄暗い病棟の廊下に反響していくような。そんな気がした。

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